薪ストーブの天板の上に、何を置くか。やかん、鍋、シチューの厚鍋。どれもいい仕事をしますが、盛岡に暮らす私たちには、ひとつ、譲れない答えがあります。南部鉄器の鉄瓶です。郷土の誇りだから、というだけではありません。鉄瓶という道具は、薪ストーブの上でこそ、本領を発揮するのです。今日は、天板の上の名脇役の話をさせてください。
鉄瓶は、火のそばで生まれた道具
南部鉄器の鉄瓶は、江戸時代から続く盛岡の伝統工芸です。もともとは、囲炉裏や火鉢の炭火の上で、一日じゅう湯を沸かし続けるための道具として育ちました。つまり鉄瓶は、生まれたときから、「ゆっくりした火の上に、置きっぱなしにされる」ことを前提につくられている。ガスコンロの強火で急がされるより、薪ストーブの天板でことこと過ごすほうが、ずっと性に合っているのです。囲炉裏を失った鉄瓶にとって、薪ストーブは、百年ぶりに帰ってきた定位置だと言ってもいいと思います。(囲炉裏と薪ストーブの話は、こちらに。)
鉄瓶の白湯は、まろやかになる
鉄瓶で沸かした白湯を飲むと、多くの方が「まろやか」「やわらかい」と言われます。鉄瓶の内側から溶け出すわずかな鉄分と、じっくり沸かす湯の質。理屈はいくつか言われていますが、まずは飲み比べてみてください。違いは、舌でわかります。しかも鉄瓶の鉄分は、体に吸収されやすい形だと言われていて、鉄分の補給源として昔から重宝されてきました。毎朝、薪ストーブの天板でことこと沸いた鉄瓶の白湯を一杯。これほど岩手らしい健康習慣は、なかなかありません。(冬の朝の楽しみは、こちら。)
加湿という、静かな実益
薪ストーブの部屋は、冬、空気が乾きがちです。そこで鉄瓶の出番です。天板の上でゆるゆると湯気を上げ続ける鉄瓶は、電気のいらない天然の加湿器。しゅんしゅんという控えめな音は、部屋の静けさを壊さず、むしろ深くしてくれます。電気の加湿器のように水タンクの手入れに追われることもなく、湯はいつでもお茶に使える。一台三役の働き者です。
育てる道具である、ということ
鉄瓶は、使い込むほどに育つ道具です。内側には湯垢という白い膜が育ち、これが湯をさらにまろやかにし、錆から鉄瓶を守ってくれます。手入れの基本は、使い終わったら余熱でしっかり乾かすこと。ソープストーンのストーブや鋳物のストーブと同じで、手をかけた分だけ、応えてくれる。何十年も使い続けられ、親から子へ渡っていく道具です。薪ストーブと鉄瓶。育てる道具同士、実にいい相棒です。(鋳物を育てる話は、こちら。)
地元の道具と、地元の火で
ハースストーンやバーモントキャスティングスの薪ストーブの上に、盛岡の鉄瓶が載っている。アメリカの名品と、郷土の名品が、同じ火の上で一緒に働いている景色は、何度見ても、いいものです。岩手・盛岡のD'STYLEは、薪ストーブの設置のご相談のとき、天板の使いこなしまで含めてお話ししています。おすすめの一台と、鉄瓶の似合う暮らし。どうぞ店で、湯気の立つ実物を眺めながらご相談ください。



