岩手県八幡平市。アオモリトドマツ(オオシラビソ)の森と湿原、大小の沼が点在する八幡平の山頂付近に、「陵雲荘(りょううんそう)」があります。岩手県が設置した無人の避難小屋で、山を歩く人の休憩所として長く親しまれてきた場所です。
今回、私たち有限会社D'STYLEは、陵雲荘に設置されていた古いストーブの回収と、新しいストーブへの入れ替えを行いました。
ただし、ここは車で建物の前まで行ける現場ではありません。八幡平アスピーテラインを上り、山頂レストハウスの駐車場に車を止め、そこから先は人の力で運びます。
山頂駐車場から、すべて人力で運ぶ

作業当日は霧が深く、山頂付近は辺り一面が白く包まれていました。
新しいストーブや工具を背負い、石畳と木道の登山道を陵雲荘まで運びます。片道はおよそ1.5km、普通に歩いて30分ほどの道のりです。平地なら大した荷物でなくても、足場の悪い山道だと重さの感じ方がまるで違う。スタッフ3名で荷物を分担し、山頂駐車場と陵雲荘のあいだを何度も往復しました。
今回の作業で特に大変だったのが、長年使われてボロボロになったヨツールF500の搬出です。ノルウェー生まれの鋳鉄ストーブで、総重量はおよそ200キロ。そのままではとても運び出せません。現地で可能な範囲まで解体し、部品を分けて、少しずつピストン搬送しました。
体力には自信があったはずですが……
私はアイスホッケーを18年続け、柔道も初段。体力には、それなりに自信がありました。
ところが、大きな荷物を背負って山道を一往復するたびに、太ももが悲鳴を上げます。普段のストーブ工事とは違う負荷がかかり、思っていた以上に時間がかかりました。途中で何度も足を止めながら、それでもスタッフ同士で声を掛け合い、一つひとつ運びました。
山の上では、忘れ物をしても簡単には取りに戻れません。天候も変わりやすい。段取りと安全確認は、普段の現場以上に念を入れました。
古いストーブを撤去し、新しい一台へ
陵雲荘に到着後、既存ストーブと煙突の状態を確認し、撤去作業を開始しました。
長年、登山者を暖めてきたストーブには、山小屋ならではの歴史を感じます。しかし、傷みが進んだ状態で使い続けることはできません。今回は施設の用途や使用状況を考慮し、価格を抑えながらも実用性を重視した一台、ホンマ製作所の「ストーブカマド」を選びました。本体約19キロと軽く、天板に鍋ややかんを置いて煮炊きもできる。人力で担ぎ上げる山の現場には、これがちょうどよかった。

既存の炉台やレンガの壁、煙突との取り合いを確認しながら設置を進め、無事に入れ替え工事が完了。作業を終えた瞬間は、達成感よりも先に、「何事もなく、無事に終えることができた」という安堵の気持ちが込み上げてきました。
八幡沼とガマ沼に寄り添う陵雲荘
八幡平は、なだらかな山容の中に湿原や沼が点在する、独特の景観を持つ場所です。
八幡平最大の湖沼「八幡沼」は、約7,300年前の火山活動で生まれた火口湖です(形成年代は気象庁の火山データほかによる)。澄んだ青い水と深い緑に囲まれ、風が吹くと湖面いっぱいに光が散ります。展望台からは、青く透き通る「ガマ沼」も望めます。
その八幡沼とガマ沼の近くに建つのが、今回ストーブを交換した陵雲荘です。

山を歩く人が雨や風を避け、身体を休める場所。寒い季節には、ストーブの火が、冷えた身体も気持ちもほぐしてくれます。私たちが据えた一台が、これから山を訪れる人たちを暖めてくれたらと思います。

「八幡平ドラゴンアイ」でも知られる山
八幡平は、「八幡平ドラゴンアイ」でも広く知られるようになりました。例年、雪解けが進む5月下旬から6月上旬ごろ、山頂付近の鏡沼で、沼の中央部と周囲の雪が円形の模様をつくり、上空から見ると龍の目のような姿を現します。

雪や水、光や気温。それがうまく噛み合ったときにだけ現れる景色です。ドラゴンアイだけでなく、八幡沼やガマ沼、湿原、オオシラビソの森と、八幡平は季節ごとにまったく違う表情を見せます。
ストーブを運ぶことも、私たちの仕事
建物の構造を確かめ、煙突を安全に納める。重い本体を現場まで運んで、長く安心して使える状態に仕上げる。そこまでやって、ようやく薪ストーブの仕事です。
ストーブの暖かさが要る場所に、
火のある環境をちゃんと残す。それだけのことなんですけど。
今回のように、車が入れない山の上へ運ぶ現場もあります。確かに大変な工事でした。しかし、霧の中を何度も往復した疲労も、据え付いた一台を見た瞬間に少しだけ軽くなりました。
これからもD'STYLEは、設置場所の条件に向き合いながら、その場所に合ったストーブと安全な施工をご提案していきます。設置工事の流れそのものは「薪ストーブの設置工事、何が起きるか全部話します」に書きました。山小屋・施設・店舗の一台も、ご自宅の一台も、まずはご相談ください。



