思い出してみてください。今までで、いちばん深くととのえたサウナを。その部屋は、明るかったでしょうか。それとも、薄暗かったでしょうか。多くの方が、暗いほうの記憶を挙げます。木の壁が焦げ茶に沈み、ストーブの石だけがほのかに浮かび、隣の人の輪郭が、ようやくわかるくらいの薄闇。いいサウナは、なぜか、暗いのです。今日は、この「暗さ」の話をさせてください。
サウナは、暗がりで生まれた
サウナの故郷フィンランドで、サウナは何百年ものあいだ、暗い場所でした。もっとも古い形であるスモークサウナには、煙突がありません。石の山を薪の火で何時間も焚いて、煙を小屋じゅうに充満させ、煙を逃がしてから入る。壁も天井も煤で真っ黒、窓は小さく、中はほとんど闇です。その暗がりの中で、人々は体を清め、産湯をつかわせ、人生の大切な時間を過ごしてきました。サウナが「静かで神聖な場所」とされてきたのは、この暗さと無縁ではありません。暗いからこそ、人は静かになり、火と蒸気に、心を寄せられたのです。(スモークサウナの文化は、エストニアの話やリトアニア紀行にも書きました。)
暗さは、目を休ませる
私たちの目は、朝起きてから夜眠るまで、働きづめです。スマホ、パソコン、照明、看板。現代の暮らしは、目に浴びせる光の量が、かつてないほど多い。頭の疲れの少なくない部分は、実は目の疲れだと言われるほどです。
薄暗いサウナに入ると、この目が、ようやく休みます。見るものがないから、見なくていい。まぶたを閉じても、開けても、そこにあるのは、ほの暗い木の色だけ。視覚が静まると、代わりにほかの感覚が起き上がってきます。石の上で水が弾ける音。木と蒸気の匂い。肌をつたう汗の感触。暗さは、五感の主役を、目から体へ交代させてくれるのです。ととのいが深くなるのは、その自然な結果です。(ととのいの正体は、こちらで。)
夜へ向かう体に、やさしい
もうひとつ。特に夜のサウナにとって、暗さは実用でもあります。人の体は、強い光を浴びると、眠りへ向かうスイッチが入りにくくなると言われています。夜、こうこうと明るい場所で過ごしてから布団に入っても、頭がなかなか鎮まらない。あの感覚です。薄暗いサウナでゆっくり汗を流す時間は、体にとって「もう夜ですよ」という、やさしい合図になります。サウナのあと、すとんと眠りに落ちやすいのは、温まりだけでなく、この暗さの助けもあるのです。(サウナと睡眠の話は、こちらに。)
火明かりという、ぜいたく
そして、暗さの本当の楽しみは、その中に浮かぶ小さな明かりにあります。薪ストーブサウナなら、炉の扉の向こうで揺れる炎。あの光は、どんな照明にもつくれません。何万年ものあいだ、人類が夜ごと囲んできた火の明かりを、現代の暮らしの中で眺められる場所は、もうほとんど残っていません。薪サウナと薪ストーブは、その数少ない例外です。暗い部屋で、火だけを見つめる時間。それは、人間の いちばん古い記憶に触れるような、静かなぜいたくです。
暗さまで、味わうサウナを
明るさは足すことができますが、暗さは、意識しないと手に入りません。自宅サウナなら、その日の気分で、明かりを絞って、とことん暗い夜を楽しむこともできます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビア岩手県正規代理店として、光まで含めた「心地よいサウナの空気」づくりをお手伝いしています。設置のご相談のときに、ぜひ「暗いサウナが好きです」と言ってください。私たちは、その一言が大好きです。おすすめの楽しみ方まで、たっぷりお話しします。



