先日、仲間の職人たちと集まって、一日がかりの勉強会をひらきました。テーマは、「煙突まわりの熱は、どう伝わり、どこに籠るのか」。カタログの数字を眺めるだけでなく、実物大のモックアップ(壁と屋根の一部を本物と同じように組んだ試験体)を足場の上に立ち上げ、煙突が屋根を貫く部分の熱を、手を動かして確かめました。

なぜ、わざわざ実物で組むのか
薪ストーブ本体の性能は、メーカーの試験値があります。けれど、実際に火事につながる事故の多くは、本体ではなく「煙突まわり」で起きます。屋根や壁を貫くところ、断熱材との取り合い、貫通部の離隔。ここは家ごとに条件が違い、図面の数字だけでは見えないことがあるのです。だから、本物と同じ材料で組んで、実際の熱を確かめる。手間はかかりますが、これがいちばん確かなやり方だと思っています。
低温でも、木は炭になる
火事と聞くと、真っ赤に燃える炎を思い浮かべます。けれど、煙突まわりで本当に怖いのは、もっと地味な現象です。木材は、発火する温度よりずっと低い熱でも、長い年月くり返し受け続けると、少しずつ炭のように変質していきます。低温炭化と呼ばれる、この静かな進行が曲者です。炭に近づいた木は、もとの木より低い温度で火がつくようになる。何年も問題なく使えていた家で、ある日ふいに火が出る背景には、この長い蓄積があることが多いのです。だからこそ、目に見える炎ではなく、目に見えない「じわじわ」のほうを、私たちは先回りして確かめておきたいのです。
熱は、どこへ逃げ、どこに籠るのか

煙突の熱は、まっすぐ上に抜けるだけではありません。貫通部の金物や周囲の木部へ、じわじわと伝わっていきます。二重断熱煙突と適切な離隔があれば、木部の温度は安全な範囲に収まる。逆にそこが甘いと、長い年月のあいだに木がゆっくり炭化し、ある日の一度の高温で火がつく。煙道火災は、金属を曲げるで紹介した、あの怖さにつながります。

二重断熱煙突と、離隔という知恵
では、どう防ぐのか。答えのひとつが、二重断熱煙突です。煙突を二重にして、あいだに断熱の層をはさむと、内側は高温を保って引きを強くしつつ、外側の表面は触れられるほどに温度が下がります。煙道の中はしっかり熱く、まわりの木部には熱を移さない。この一見わがままな要求を、構造で叶えるのが二重断熱煙突です。あわせて、煙突と木部のあいだに適切な距離をとり、遮熱の板をはさむ。この「離す」という古くからの知恵が、屋根裏の木を静かに守り続けます。派手さはありませんが、家の寿命を左右する要です。
髄の髄まで調べる、という仕事

「そこまでやるの?」と言われることもあります。でも、火を扱う仕事です。お客様の家と暮らしを預かる以上、納得できるまで、髄の髄まで調べておきたい。仲間と知恵を持ち寄れば、一人では気づけないことにも手が届きます。こういう地味な積み重ねが、屋根の中で静かに家族を守ってくれる。そう信じて、私たちはこれからも学び続けます。
火のある暮らしは、豊かです。その豊かさを、安心して長く楽しんでいただくために。表からは見えないところにこそ、いちばん手をかけたいと思っています。
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